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2013年10月28日 (月)

「あまちゃん」チーフプロデューサ訓覇氏のワークショップの受講レポート 【第2部】

【第2部】

 20131027日(土)、恵比寿ガーデンプレイス内の東京都写真美術館にて、「あまちゃん」のチーフプロデューサである訓覇圭氏のワークショップが開催された。その第2部のレポートです。

 

 第2部では、ディレクターの吉田照幸氏が加わった。ここからのテーマは「演出」ということで、演出の仕事としての、スタッフィング、キャスティングの話から、吉田氏の自己紹介から始まった。

 吉田氏の専門は、「バラエティ」。代表作として、「サラリーマンNEO」を挙げ、映画がコケ、連鎖するように、TV放送自体も打ち切りになったと自虐的に語りはじめ、暇になったところに「あまちゃん」の話が来て、「やります」と即答したとのことだった。訓覇氏は、「楽しい」に組み入れたい人だと語った。

 吉田氏が当初不安だったのは、まずチーフではない点(決定権がない立場)とのことだった。また、ドラマを撮ったことがなく、(バラエティと違って)オチがない点や、自分自身の役割の転換が不安だったと語った。

 訓覇氏は、「あまちゃん」のベースは、コメディではなく、喜劇だと説明を入れた。

 コメディと喜劇の違いにはさまざま意見があると思うが、“芝居の中に泣き笑いを含める喜劇”と、“笑いのために作りこむコメディ”といった意味で使っていると私は判断した。

 

 「あまちゃん」には、3人のディレクター(井上氏、吉田氏、梶原氏)がおり、それをまとめるのがプロデューサである訓覇氏。訓覇氏としては、3人を次のように使い分けたとのことだった。

・井上氏=情緒表現系

・吉田氏=お笑い系

・梶原氏=ガッツリ系、熱い系

 

 また、「他のディレクターが、“難しい”と断ったシーンの演出を何が難しいかもわからずに引き受けた」と、吉田氏が付け加えた。

 

 ちなみに、「あまちゃん」のオープニングは、吉田氏の担当。撮影日は風が強く、空撮に利用したラジコンヘリが戻ってこれなくなるといったハプニングもあったそうだ。また、風にあおられて撮影した映像が格好良かったとか、鳥が飛ぶシーンは、自然に鳥が飛び、合成ではないと語った。

 訓覇氏から、「オープニングで走行する車両が1両のみの理由は?」という問いに対しては、「かわいいから」と答えた。

 ラジコンヘリは、経費節減のため、1日しか使えなかったとか、灯台の映像の手作り感を出したかったとの話もあった。揺れにかけたスタビライザーの効果も、チーフがそのままの映像で良いとの指示で戻し、これを使うのかと尋ねられるエピソードも吉田氏は紹介した。また、オープニング曲に関しては、潜りの撮影の頃に届いたとのことだった。

 

 その後、オーディションについての話があった。

 オーディションは、今回、事務所所属を前提にし、2000人の書類選考からはじまったとのことだった。面接では4分の1に絞るため、5人まとめて30分を1回として、1日に5回を5日間繰り返したとの説明があった。ちなみに、公平と平等を重んじるNHKの風土のため、同じ質問を続けるそうだ。書類はすべて直筆で、ものすごい熱量を感じるとのことだった。能年玲奈に関してのエピソードとして書くことができるのは、「3人のディレクターの口が、“ハッ”となったことだ」と、訓覇氏は語った。

 2次選考では100人程度。3次選考では10人くらいにカメラの前で実際に芝居をしてもらったそうだ。

 能年さんの第一印象は、圧倒的な輝きだったと訓覇氏は語った。特徴としては、口数が少なく話さないのでよくわからなかったとのこと。「そのわからない“可能性”や“未知数”に賭けた」というのが、訓覇氏の3つの博打のうちの1つとのことだった。

 

 どのくらい泳げるかの問いに対しては、書類には“25m”との表記があり、「(本当に」大丈夫?」と問いかけたところ、「はい!」しか言わなかったらしい。

 オーディション参加者は、泳ぎ等の前提条件がある場合、当然、練習をするので、隠れて見に行ったエピソードが紹介された。

 「横には動けないけど、下には潜れるというまさかな状況」、「横にも下にも5m」という名言に受講者一同は爆笑した。

 

 登壇されていたお二人が口をそろえていうのは、能年さんの根性と倒れないということだった。疲れたという顔も、少なくともスタジオではなかったとのことだった。

 

 訓覇氏が能年さんへ指摘したのは、誰もが知っている猫背を直すこと。指摘すると、返事は良いが5秒とその姿勢はもたないとのこと。母親役を演じる小泉今日子さんからも「親としてなおす」とのコメントがあったが、結局クドカンの「猫背も個性」という言葉で落ち着き、クドカンがイメージする主人公アキのイメージと適合し、能年さんには何もしないというスタンスができあがったとのことだった。

 

 吉田氏は、「能年さんは、話さないけど、理解力がある(指示したことが伝わっている)」と語った。また、ナレーションをバックとしたセリフのない顔芝居がうまいと評価した。

 

 ここで、能年さんの芝居を説明するために、「自転車(灯台にて、自転車が浮かび上がった後、海に落水するシーン)」と「前髪クネ男」の映像が流された。

 

 できあがった映像を見て能年さんが吉田氏に唯一語った言葉は「もし、(自転車が)飛ぶのなら、違った演技だったのに」だったそうだ。台本には“自転車が落ちる”としか書かれていないため、結果は映像になってからでないとわからないので、あとからこの言葉が出たとのことだ。「能年さんには、笑いに対する要求があった」と吉田氏は語った。

 

 ちなみにこの自転車と落水シーンは、3つのパターン(自転車がうかびあがってから落ちる・横に移動してから落ちる・普通に落ちる)を作ったとのことだった。

さまざまな意見があり、やりすぎないで欲しいと思う訓覇氏からの意見はあったが、普段は指示通りにする吉田氏も、この時ばかりは自分の意見「飛んでほしい」を通したそうだ。訓覇氏いわく、「やり過ぎは空回りする」とのことだったが、今回は平気だったと語った。

 

前髪クネ男で特徴のある腰の動きは、腰を横に振るパターンも作ったが、結果として、縦の動きだけのパターンになり、よけい卑猥になったと、吉田氏は語った。ちなみに、この演技に関して、古田新太さんが熱をいれて指導していたらしい。

 

能年さんのエピソードとして、「白目」の話があった。

撮影当日、能年さんが「(白目を)練習してきました!」と元気にあいさつし、練習ってどうなのかなって思って撮影してみたら、想像を絶するほどの白目で、アウト!と吉田氏。NGにしようと思ったら、ユイちゃんを演じる橋本愛さんから「おもしろいですよ、カントク!」と迫られ、女子高生のような二人のノリに押し切られてしまったとのことだ。

 

 クドカンの脚本のうまさに関してもコメントがあった。

 主役のアキは、第1週目ではセリフは少なく、徐々にエピソードを交えてから、話をさせていくという手法が感じられたそうだ。

 また、主人公アキの口の悪さもOKとなっており、特に、ストーブさんとヒビキに対するアタリは強く、能年さんの白目が上に行くような演技だと、吉田氏は表現した。

 能年さんの瞬発力はすごく、橋本愛さんも声の幅が大きく、つぶやきから大声になるシーンで音声さんがびっくりしたとのエピソードも紹介された。

 

 続いて、キャスティングに関しての話があった。

 難しいと思ったのは、“先を決めるとおもしろくない”とのことだった。

 キャスティングは春子から始まり、細かい役柄まで相談して決めたそうだ。

 クドカンの脚本は、普通の粗書きではなく、役者の持ち味を引き出す脚本だと表現した。

 劇団「大人計画」のメンバを起用するにあたってもイメージをよく考えたそうだ。

 

 撮影に当たっては、2部と呼ばれる東京編の前となる1部で、すでに現場はヘトヘトになっていた。プロデューサーの仕事は現場を刺激することだと訓覇氏。「2部は吹っ切れた感がある」と訓覇氏が語ったところで、すぐさま「現場は大変でした」とのツッコミが入りました。

 クドカンの脚本は、一画面の中に人が多いと、吉田氏。「演出側が試されていると感じることがある」とも表現した。

 画面内にいるのに、大御所の役者にセリフがないこともあり、「何をしたらよいか?」との尋ねられることもあったそうだ。しかし、撮影がすすむにつれて、役者側から自然とアイディアが出てきて、立ち位置等も自然に決まるようになったとのことだった。

 

 松田龍平さんは「謎めいた男」から始まり、主人公アキの支えになる重要なポジションになっていった。撮影の初めに、「ボク、これからどうなるんですか?」と松田さんに尋ねられた吉田氏は答えようがなく、困惑したそうだ。

 吉田氏が語る松田さん(ミズタク)のエピソードとしては、NHKの社員食堂で通りかかった子供に、「ミズタクだ!」と声をかけられて、うれしそうにしている場面の紹介があった。

 

 ここで、春子と正宗の離婚届のシーンwith大吉とサンタのシーンの映像が流された。

 夫婦の離婚というシリアスなシーンで、普通のドラマならば、1週間はかけるところ、1日のみのシーン。そもそも、なぜ、そんなシーンに大吉が同席しているのかという疑問がある。

 これには、クドカンの恋愛観というか人間関係へのこだわりがあるようだ。

 訓覇氏は、「夫婦をコメディでやるのには迷った」と語った。

 

 また、サンタのシーンに関しては、過去にNHKでサンタ役をお父さんが演じるシーンにクレームが入ったことを訓覇氏は語った。訓覇氏自身、親となり、クレームの意味を身をもって理解することができたと語った。

 「あまちゃん」で使った表現としては、サンタクロースを演じる正宗の特殊メイクが年々向上していき、それが家族の成長にシンクロさせたかったとのことだった。

 サンタのシーンの直前のスナック「梨明日」でのドタバタシーンは、ネタとして混乱させたかったとのこと。

 主人公アキが高校生にもなって、サンタを信じているということに当初から議論になったそうだ(ヒロインのキャラの完全崩壊の恐れ)。“(高校生でもサンタが実在すると)信じられるくらいの特殊メイクをする”といった意見も出たとのこと。

 結果として、「こどもの夢を壊さず、おとなの意見も納得させる」ということに落ち着いた。これは、「あまちゃん」のこだわりだそうだ。

 “シーンをなくさないことが大事”という考えである。

 離婚のシーンでも大吉をどうするか(無視するか/無視しないか)という議論があったそうだ。

 リアル(現実)を超えた心情の表し方が、クドカンの脚本とのことだった。

 離婚のシーンでは、春子と正宗の二人は大吉をいないものとして無視している。訓覇氏的には、このシーンは、“理論的にアウト”だそうだ。理由は“コント”だから。

 リアリズムではいないはずの人がいる状況を直前の梨明日でのドタバタ劇(カッパや海坊主の話)までいったあとに、悲しみのシーンにつなげるという繊細さが、クドカンの欲求の高さだとの表現があった。サンタを見送るのも春子でなく、夏ばっぱであることも、その繊細さのひとつ。

 

 正宗演じるサンタの声に関してもいくつかの意見があった。訓覇氏は、すべてサンタの声、場合によっては外国人等での吹き替えも考えていたとのこと。吉田氏は、実際の音声となる正宗自身が、正宗とサンタの声を使い分けているパターンの意見だったそうだ

 

 訓覇氏的には、この離婚シーンをタイプの違う3人のディレクターの全パターンを観たかったそうだ。吉田氏が担当したこのシーンの特徴は、セリフを発しない大吉の顔芸と、3人の役者を三角形の形状に配置したことだと説明があった。

 

 吉田氏が徹したことは、「職人」ということだったらしい。

 撮影に当たっては、クドカンのもつエッセンスを逃がさないようにすること(自分自身の意見がいれないこと)。

 大事なシーンも台本ではさりげなく表現されているため、会議では“何が大事か”をきくことに徹していたと、吉田氏は語った。

 

 ここで、2013年のスケジュールがスクリーンに投影された。

[20131月~6]

・撮影

1週目から20週目までの全100話の編集

2月から、1週目から17週目(85話分)のMA(音声編集)

3月から、1週目から17週目(85話分)の試写

4月から、放送スタート。

 

[20137月~9]

・撮影

21週目から26週目までの全30話の編集

8月から、1週目から17週目(85話分)のMA(音声編集)

9月から、1週目から17週目(85話分)の試写

・放送

 

 「あまちゃん」の撮影は、出演者が多いのが特徴。

 訓覇氏は、重要なシーンには、撮影現場にいられるようにスケジュールを決めていたそうだ。

 吉田氏は、撮影のスタイルを「5カメ、3REC、平均2回」と表現した。

 

 15分という枠に関して、「あまちゃん」は、通常の朝ドラの23倍の情報量が入るんだと再認識したと表現されていた。つまり、「15分って、こんなに(情報が)入るのか!」という印象。

 同じ15分でも「短い!」と感じる時と「見ごたえがあるなぁ」と感じる時があると表現されていた。短く感じるのは、テンポが速い時。見ごたえがあるときは、印象的なシーンがある時だと。

 

 クドカンの脚本は、“適当に流す”ということがない。撮影はとにかく時間がなく、演出は週単位で捉えていたと、吉田氏は締めくくった。

 

#ここまでが、当日のワークショップの第2部となります。

 ここで、10分の休憩後、受講者の質問にこたえる第3部となった。

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コメント

お疲れ様です!
早速読ませていただきました。
これほどの貴重な情報をていねいにまとめていただいて感謝です!
続けて第3部もこれから読ませてもらいます。

coaltar_rain様

コメントありがとうございます。

私自身としても、読みづらい自筆メモの判読ができるうちに書きあげてしまいたくて、なるべく早く書きおこしました。
かなり長くなってしまいましたが、最後までお楽しみください。

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