2014.03.14(金) NHK放送文化研究所 2014年 春の研究発表とシンポジウム 「テレビとメディアの”現在値(ち)” ~伝えてきたもの、伝えていくもの~」の特別セッションとして「”ソーシャル”が生むテレビ視聴熱!? ~あまちゃん現象が投げかけたもの~」が開催された。
その内容を簡単ですが、レポートいたします。
会場は、千代田区放送会館の2階。スナック梨明日をイメージした壇上となっており、パネリストの目の前には、あまちゃんで見かけたアイテムが、並べられ、壁にもポスター等々が掲示されていました。パネリストの名前は、リアスのメニューを記載した柱上の紙に記載されていました。
パネリストは、5名。そこに、NHK放送文化研究所から、司会で1名、報告で1名の計7名が登壇していました。
この特別セッションは、社会現象とまで言われた「あまちゃん」、「あまちゃん現象」を通して、ソーシャル時代のテレビの力や可能性を考える場でした。
調査報告資料は、NHK出版から発行されている「放送研究と調査 2014年3月号」に詳しく掲載されているそうです。
調査報告は、まず視聴率からはじまりました。
2013年度の連続ドラマの平均視聴率では「あまちゃん」は4位でした。
ちなみに3位は「ごちそうさん」。2位は「Doctor-X」、1位は「半沢直樹」となります。
「あまちゃん」の比較対象として「梅ちゃん先生」が多く挙げられていました。
「あまちゃん」と「梅ちゃん先生」の月別平均世帯視聴率の比較は、どちらも19%台からのスタートしました。最終月は、「あまちゃん」22.1%、「梅ちゃん先生」21.0%となっており、その他の月も、その差は1%前後の差で大差は見られないとのことでした。
連続テレビ小説全89作の平均視聴率の推移は、1980年代の「おしん」がピークであり、その後、ひたすら下降。上昇傾向に転じたのは「ゲゲゲの女房」からで、これは、開始時刻を8:15から8:00にした効果かもしれないとのコメントがありました。
男女年層別視聴率(8:00-8:15)を「あまちゃん」と「梅ちゃん先生」で比較すると、あまちゃんの特徴は、男性の40代と50代、女性の30代が梅ちゃん先生より視聴率が高い事とのことでした。
「あまちゃん」と「梅ちゃん先生」の認知度と視聴頻度、そして満足度の比較に大差はなく、大差があるのは、新聞記事件数(654件と100件)と雑誌記事件数(633件と129件)とのことでした。
一方、NHKオンデマンドでの第1話の視聴回数では、「あまちゃん」は、「梅ちゃん先生」の4倍。スマホ関連での視聴者は3倍という差がありました。ただし、NHKオンデマンドの契約者は時期的に1.5倍になっているという点を考慮する必要はあります。
NHKオンデマンドのトップ4は、あまちゃん関連でした。1位、2位は、第1回と第153回。3,4位は、あさいちのプレミアムトークの能年ちゃんの回と、盛岡放送局のじぇじぇじぇ祭りとのことでした。地方の放送局が上位にランキングされることは珍しいことだとのコメントがありました。
新聞記事や雑誌記事同様、テレビ番組でとりあげられた回数は、あまちゃんが、梅ちゃん先生の3.6倍(667件と183件)という結果でした。
ツイッターの発言数を比較すると、梅ちゃん先生(26週)で53万件。あまちゃん(26週)で612万件。ごちそうさん(13週時点)で67万件。半沢直樹(10週)で210万件。
「あまちゃん」と「梅ちゃん先生」のツイート数の週別比較では、あまちゃんは最終回に向けて右上がり、梅ちゃん先生はU字型(序盤と終盤が高い)。総ツイート数はあまちゃんが10倍以上多い結果でした。
「おしん(平均視聴率50%超)」と「あまちゃん」の世論調査を比較すると、おしんには”仲間や近所の人と話し合う会を造った”という回答がある。一方、SNSで盛り上がった割には、世論調査でのあまちゃんには、その要素があまり見受けられないとのことだった。
何があまちゃん現象を引き起こしたのか?を考えると、SNSでの盛り上がりが挙げられる。特に、40代前後とドラマ内の元ネタの深い関係がる。また、あまちゃんの魅力と特徴は、”二次創作と感想のやりとり”、”妄想の出現”というコメントがあった。
二次創作が過熱する一方、制作者サイドでの権利のコントロールの難しさの懸念があった。脚本家がもし、往年の大先生だったら?...現在のような状況にはなっていない可能性がある。
二次創作を海外では批評に使う傾向があり、日本では”こういうのがあったらいいよね?”という共感の手段に使うといった違いがあるそうだ。
権利のコントロールの難しさはあったが、二次創作に関するプロの参加や、”愛にあふれるコンテンツ”に恵まれたことが「あまちゃん」にとっては幸いなことだった。
連続ドラマにとって、SNSは今までにない新しい社会だが、おしんが放送された時代にも「語り合う会」というものが、リアルな会としてあった。
Twitter上で、ツイートする人の”縦軸をフォロワー数”、”横軸を影響力”とした場合、フォロワー数が中間数の人の方が影響力が大きいとのことだ。 いわば、量より質。 (一方的な発信と読み手の受信よりも、限られた人数で双方向につながることの重要さと思われる)
時代は”視聴率”から”視聴質”への変化している。量よりも質の時代である。
二次創作の例として、初音ミクの話がでた。単なるDTM音源を提供したつもりが、思いがけず、そのイラストが爆発的に流行り、驚いた。最低限のルールを決めて自由にさせたということで、以降も活発な創作活動が行われるという結果となっている。
二次創作というか、こうった楽しみ方は、俳句や歌舞伎の楽しみ方と似ているとのコメントがあった。
SNSの魅力は、多方面からコメントをやりとりできること。前述の年代別視聴率の特徴から、小ネタがわかる男性の年齢層と、ネットスキルの高い女性層の影響力が大きい。
小ネタの多用は、面白いが、高齢者への影響(ネタがわからない→視聴離れ)が懸念だった。そこが、朝ドラとしての懸念点だった。
危機管理というといい過ぎの感があるが、リアルな人の言及は注意していた。原則的に固有名詞を避けるがあえて使った部分もある。とにかく気をつかった(通常の2~3倍)部分ではある。特に音楽的な権利の件は大変だった。ドラマ、テレビとしての新しい可能性を感じたとのこと。
あまちゃんのツイートの特徴は、放送終了直後(早あま、本あま、昼あま、夜あま共通)にツイート数がピークを迎えることらしい。
あまちゃんのツイート数の特徴は、ネタ回と感動回にあらわれる。
あまちゃんにけるツイートの時系列的特徴は次の通りとのこと。4週目:主人公の呼称が能年ちゃんからアキちゃんへ変わった。 その後、あま絵出現や、小ネタの調査・分析のツイートが増加。11週目:海女~ソニックの時期にピークがある。13週目:東京編で個人的批評が増える。 8月:夏休み等でツイート数が増加。8月末:震災の話、体験談。最終回:「ありがとう」 感謝の意の表明...といった具合である。
ネタ回と感動回の発言数をみると、ネタ回(6/13)海女~ソニックにフレディ登場=600件以上/分。 感動回(8/30)レコーディングで影武者和解=800件以上/分という結果が出ている。
ツイート数に発言者数を考慮すると、梅ちゃん先生=2.2件/人。あまちゃん=7.0件/人。ごちそうさん=2.5件/人。半沢直樹=1.2件/人。
半沢直樹は、ツイートしたい人は多いが、ヒトコトいえばOKな人達。あまちゃんは、発言を頻繁に行う核となる人は限られているが、多くを語りたい人という特徴が見受けられる。
ツイート数の集計は、ハッシュタグ#あまちゃん と”あまちゃん”というキーワードマッチングだけだが、マッチしないツイートやRTの量は膨大なはず。ネットワークのつながりを追いかけないと全体はわからないだろうとのことだ。
あまちゃんによるNHKへのイメージ向上効果は大きく。 「以前に比べて柔軟」、「NHKもなかなかやるな」、「親しみの増加」などがアンケート結果に出ているとのことだ。
NHKとして、ブランディング[企業ブランド(イメージ)]の再構築を考えねばならない。視聴者層の変化を見極めて、放送にどのように役立てるかということがテーマだ。
あまちゃんには、情報の発信者(編集者や創作者)にウケたという傾向がある。
梨明日での仲の良さがウケて、愛されている。コンテンツが面白く、役者同士も仲が良い。 楽屋の様子が役者のblog等で紹介されることは今まであまりなかった。
コミュニケーション全ての世界観、作為性のなさが大事な点であり、楽しい雰囲気、仲の良さに心地よさ、快い感じの効果があったと思われる。
あまちゃんは、「視聴することを共有する」という新しいドラマの観方(鑑賞スタイル)であるといえる。
ツイート数の分析では、あまちゃんは、一人あたりの発言数と総ツイート数から”エキサイト”で、発言者数が少なめなことから”マニアック”な傾向がみられる。
みんなが集まることによる蓄積の効果(名台詞が大人数で多用される。”倍返し”、”バルス”などがある。
あまちゃんでは、あらゆることが集められていった。当日の会場に置かれた乾電池(太巻の眉間に刺さった電池)にも激しく食いつくなどが例としてあげられた。
今回のオリンピック、特にフィギュアスケートと鑑賞方法は似ている。メダルでもなく、点数でもなく、語れることへの共通点。蓄積され、人が参加し、ポピュラーではなく、どこかマニアックであり、たいへんエキサイトである。
朝ドラは、女性の一代記が多い。一話完結の話では半年間続けることはできない。6か月間過ごせる蓄積のコンテンツであり、これは、昔の新聞小説に相当するものと考えられる。
「生活時間が多様化しているのに、視聴者の時間を制約するのはナンセンス」という意見が放送業界では一般的だったが、あまちゃんは逆だった。むしろ、視聴者の生活時間を変えた傾向が見られた(早あまを見るために早起きなど)。
結局は、”生(LIVE)”。時間の共有が大切である。視聴者がなんらかの形で参加できることが良い結果を生んでいるようだ。
「フィギュアスケートとあまちゃん」、「羽生選手と能年ちゃん」、「AKBのxx推し」のように、応援していく楽しみがある。現地に行かなくても同じ時間にTVをみることで、リアルタイムにみんなで共感できるというTVの良さを感じた。
目の前で繰り広げられるものをみんなで共感するのは、”舞台”と同一。コンテンツを楽しむとともに、役者の”人”まで見られる楽しみ。クドカン=舞台。訓覇P、井上D=ドキュメント。吉田D=バラエティ。という融合の結果ではないか。
視聴者にとっては、”巻き込まれた感”があまちゃん。半沢直樹は、”別世界”である。
あまちゃんでの伏線への注目の仕方がすごい。平清盛の伏線の回収方法の話が合った。玄人っぽく、観る人が増えた。二次創作の特徴として、読み込むこと、分析することがある。
ソーシャルメディアは、火だねが必要。膨らませることは得意。どんな火だねを放り込めるのかが、作り手の役目。
40~50代は、同人誌世代。1980~1990年代、二次創作に積極的に関与してきた世代。こ
れからの20代はどうなるのか...?それを考えるのが楽しい。
【さいごに】
今回のテーマは、あまちゃん現象を通して、「ソーシャル時代のテレビの力や可能性を皆さんとともに考えます。」にありました。
パネリストの方が引用した言葉が、ひとつのカギだと考え、ちょっと調べてみました。
その言葉とは、「旧来のメディアが、新しいメディアにとって代わるとき、旧来のメディアの本来の役割が明らかになる」という言葉でした。
おそらく、マクルーハンの『グーテンベルグの銀河系』の内容だと思います(勉強不足ですみません)。
ブームというものが、30年周期でおこるような話をきいたことがあります。
おそらく、こども時代に流行ったブームをその世代がおとなになった時に、制作者側と購買力をもった消費者となり、その活動が一致した時に、ブームの再来になるのだと感じています。
火だねの話がありましたが、技術者の世界でも、ゼロを1にするのが一番大変だといわれています。 今回は、TVの作り手がきっかけをつくってくれたわけですが、絵が描けたり、曲がつくれたり、詩が書けたり。もちろんマンガも、クリエーターとよばれる方にはスキルとチャンスがあると思います。
そんな、きっかけづくりや、その火付け役、加速役になれたらと、今回のセッションを聴講して感じました。
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